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銀魂
A
部屋の隅に適当に旦那を転がすと、俺は万事屋に電話するため、部屋を出た。
「もしもーし。こちら真選組ですが、お宅の天パのオッさん保護してます。今日中にお引き取り願います」
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「ご迷惑お掛けしました。ほら、銀さん帰りますよ」
俺の電話から数十分後、万事屋のガキ共が主を引き取りに来た。

「うるせェ。眼鏡の癖に」
「眼鏡の癖にって何!?眼鏡全否定!?」
「いちいち煩いアル。だから新八は駄目ネ」
「なんだとォォォ!!」

屯所の門前。
旦那を引き渡した途端、万事屋の3人が喧嘩を始めやがった。
このままではキレた眼鏡が旦那を置いたまま帰ってしまいそうだ。
それは困る。

「まぁまぁ、落ち着きなせェ。ほら、旦那も煽るようなこと言わないで」
俺の仲裁によって事態は一時中断。
眼鏡が此方を向いて頭を下げた。
「すみません、沖田さん。僕たちはこれで失礼します」
「また来てやるネ」
「テメェはもう二度と来んじゃねェや」
適当な挨拶と共に3人は俺に背を向けた。
万事屋トリオが見えなくなったのを確認すると、俺は門を潜り土方さんの部屋へ向かった。


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「土方さん」
障子の外から声を掛ける。
「総悟か?入ってこい」
「失礼しやす」
静かに障子を開けると中に入り、また静かに障子を閉めた。

「アイツは?」
「帰りやした。ガキ共が迎えに来て」
アイツ、とは旦那の事。
「そうか」
俺の返答に小さく頷く。

「土方さん。アンタに話があるんですが」
「何だ?」
土方さんがこっちを向いて、俺と目を合わせる。
俺は目を合わせたままその場に腰を下ろした。

「俺、アンタの事が好きです」
俺の告白に、土方さんは目を見開いて固まってしまった。

「…冗談は止せ。お前は早くいい奴見つけて幸せになれ」
我に帰った土方さんは俺から目を逸らすと早口でそう言った。
「俺は土方さんに幸せにして欲しいです」

俺がそう言うと土方さんは苦い顔をする。
「…それはできねェ。テメェのことは大切だし、大事なもんだ。でもそれは仲間としての感情で、それ以上にはなれない」
知っていた。
俺が想いを告げれば、土方さんはこう言うって。
覚悟もしていた。

俺は土方さんの顔を覗き込んで無理矢理目を合わせるとニッコリ笑った。
「わかってましたよ。アンタならそう言うって。だってアンタは不器用だから、一度に沢山の人を愛せない」
そこで一度息を吸って、続ける。
「今のアンタの一番は旦那ですからね。とても俺では敵いやせん」

俺の言葉が意外だったのか、土方さんは少し呆然としていた。
「唯、ひとつお願いが」
右手の人差し指を自分の顔の前に立てる。
「…あ?」

「これまでと同じように、仲間として、部下として、これからもよろしくたのみまさァ」
土方さんの口の端がゆっくりと吊り上がる。
「あぁ。当然だ」
ちらりと部屋の隅に置かれた机を見やると始末書やら何やらが山のように積み上げられていた。

「それでは俺は失礼しやす」
「あぁ」
のそりと立ち上がると来たときと同じく静かに襖を開けて部屋を出た。

広い廊下には、副長室の前だからか人がおらず、寒々としていた。
考えてしまうのはさっきのことで。
少しずつ実感が湧いてくる。
あぁ、俺はフラれちまったのかィ…。

「……」
心臓のもっと奥、心って奴がズタズタに引き裂かれたみたいに痛むけど、きっと気のせい。
明日からも、土方さんはこれまでと同じように俺に接するだろう。
何も、なかったように。


誰もいない廊下。
頬が濡れている気がするけど、きっと、気のせい。


沖→土銀の沖田視点。
悲恋でした。

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あきゅろす。
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